つなぎ塾トーク<第6回:港北区で地域ビジネスに携わるみなさん>

新型コロナ禍での気づき、身近な地域の大切さ

港北つなぎ塾トーク第6回

新型コロナウイルスの影響で、地域活動のスタイルに変化が迫られています。「港北つなぎ塾」でも毎年冬に一同に集まる形での連続講座はいったん中断し、区内における地域団体の現状と対策法を実際に活動されている方々に尋ね、文章や画像などの形で情報を共有していく「つなぎ塾トーク」を個別に始めました。

 

どうする、コロナに負けない地域ビジネス・企業活動

~コロナ時代の事業継続・ピンチ回避のヒントとは


港北区は、都心企業へ通うためのベッドタウンとしての側面が強い街であり、必ずしもビジネスや起業の地としては認識されていないものの、新羽や綱島エリアには、業界で一目置かれる技術を持つような企業も目立ちます。加えて、新幹線駅である新横浜では、利便性の高さから全国系企業が本社を置くケースも見られます。ただ、それらの企業は企業間取引(BtoB)を中心とした事業展開が中心で、地域とのつながりが強固ではない業種・業態が多いのも現状です。


一方で、株式会社だけでなく、商店や飲食店、NPO法人や社会福祉法人などの形態を問わず、地域とつながりを持ち、地域経済に貢献を果たしたうえで事業を発展させようという「地域貢献事業(ビジネス)」の展開を試みる事業者も少なくありません。


2020年3月以降の新型コロナウイルスの影響により、各事業者は、休止・縮小・継続など影響は一様ではありませんが、総じて苦境に立つ状況です。

 

こうしたなか、新型コロナ禍という苦境にどのように立ち向かったか、特に地域密着の商店街・事業者から、その方法や対処策などについてお聞きしました。

つなぎ塾トークの第6回は、港北区内で地域ビジネスや商店街活動などを担っている3人の方に集まっていただき、新型コロナ禍を踏まえた事業・活動のあり方や、IT活用への道のりなどをテーマに話を伺いました。

 

今回は株式会社HUG(菊名2丁目)が妙蓮寺駅近くで運営するイベントスペース「古民家HUG(ハグ)」を会場とし、現状報告と意見交換を行っていただきました。

 

今回の収録は2020年12月21日に実施し、記事は2021年1月20日に公開しました)

 

<お話を聞いた方々>

 

<司会・構成>

  • 港北区地域振興課 地域力推進担当
  • 一般社団法人地域インターネット新聞社(横浜日吉新聞・新横浜新聞)
  • 写真:横浜日吉新聞・新横浜新聞撮影

 

1.港北区など地域と参加者の関わり

 

まちづくりや商店街、障害者の就労支援など担う

 

<司会>

 

第6回目となる「つなぎ塾トーク」は、“地域ビジネス”というテーマで港北区内の各地で事業や商店街活動を担われている3人の方にお越しいただきました。

 

また、本日は港北区役所からお二人の課長も同席させていただきますので、ご挨拶をお願いいたします。

 

港北区の小林課長(右)と中村課長
港北区の小林課長(右)と中村課長

<港北区地域振興課・小林野武夫課長>

 

この「港北つなぎ塾」は元々、横浜市全体で「地域づくり大学校」という名で、地域の課題解決などをテーマに団体・事業者の方がつながりながら学ぶ講座を行っていまして、その港北区版として2015(平成27)年度から継続的に開いてきたものです。

 

今年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、地域での活動にもさまざまな制約が出ています。そんななかでも、知恵を出し合ったり工夫したりして活動をされている団体や事業者があるということをご紹介できればと願っております。

 

例年、一同に集まっていただく講座やワークショップの形で開いてきましたが、今年度は新型コロナの影響でそれが難しくなりましたので、区内の各地域で個別に集まっていただき、その内容をホームページなどで公開するという形にいたしました。本日はどうかよろしくお願いいたします。

 

<港北区高齢・障害支援課・中村秀夫課長>

 

高齢・障害支援課は、高齢者や障害者の方の支援業務を主に行っていますが、その一環として港北区では「セカンドキャリア地域起業セミナー」を開いています。

 

セカンドキャリア地域起業セミナーでは、社会問題の解決を担う“ソーシャルビジネス”や多世代交流を実践していただくための講座という位置付けで、これまでに松栄建設の酒井さん、エネショウの藤原さんにもお世話になっております。

 

本日はいろいろと勉強させていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

 

<司会>

 

両課長、ありがとうございます。それでは、越しいただいたお三方の自己紹介から始めていきます。今日、会場となっているこちらの「古民家HUG(ハグ)」の運営や、インターネットメディア「菊名池古民家放送局」の立ち上げなど、この妙蓮寺地域で事業活動をされている酒井さんからお願いいたします。

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

松栄建設の酒井さん
松栄建設の酒井さん

私は生まれも育ちも妙蓮寺でして、銀嶺幼稚園(神奈川区松見町=道路1本を挟んで菊名2丁目)、港北小学校(菊名2丁目)、神奈川中学校(神奈川区西大口=港北小学校の一部が学区)と少年期は地元で過ごしてきました。

 

社会人となってからは、CG(コンピューターグラフィックス)のクリエイターとして都内のIT企業で働いていましたが、実家の事業を継ぐために20歳代で戻ってきて、そこからずっと港北区で仕事をしています。

 

実家である松栄建設は「住まいの松栄」という名で不動産・建築業を営んでおりまして、妙蓮寺で創業してから60年、私で3代目ということになりました。

 

最近まで会社事務所はお寺さん(妙蓮寺)の上のほう、仲手原1丁目にありましたが、今年(2020年)10月から菊名池公園の脇にある交差点(菊名橋交差点)、菊名1丁目のビルに移ってきました。事務所は社屋の2階と3階に置き、1階は洋菓子店「sinonoka(シノノカ)」さんが営業しています。

 

今日、会場になっている一戸建ての民家は、「古民家HUG(ハグ)」と名付け、かつてはカフェを営み、現在はイベントスペースとして活用させていただいていますが、私どもの所有ではありません。

 

妙蓮寺駅にほど近い場所ですので、マンションなどの建物も建てられる土地ですが、地主さんとしては「何か地域に生かしてほしい」との意向があって私どもに託していただきましたので、別に会社(株式会社HUG)を設け、地域活動の場として運用しているところです。

 

また、1年前から「菊名池古民家放送局」という地域情報を発信する地元メディアを立ち上げました。対象を菊名、妙蓮寺、白楽という3駅だけに絞り、「逆にそれ以外の人が見てもつまらないメディアを作ろう」という趣旨で運営を行っています。

 

地域活動としては妙蓮寺駅前の西側に広がる商店街「妙蓮寺ニコニコ会」でIT担当のような役割を担わせていただいております。

 

<司会>

 

ありがとうございます。続きまして、綱島駅前で商店街活動をされている猿渡さん、お願いいたします。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

綱島商店街の猿渡さん
綱島商店街の猿渡さん

私も綱島生まれの綱島育ちでして、祖父が「青柳」という和菓子店を綱島で営んでいました。戦時中はパン店をやっていたようです。「青柳」といいますと、大倉山や元住吉の和菓子店として知られていますが、もとは東京・渋谷の「青柳」から暖簾(のれん)分けされ、各地域でそれぞれ出店したという経緯があります。

 

“食”にまつわる家業だったこともあり、その後に「パーラー青柳」というレストラン業に進出しました。私自身も綱島駅前のビルで「自由亭」というレストランを2016(平成28)年まで30年間にわたって運営してきましたが、後継者が見つからず店は閉めました。

 

地域との関わりで言いますと、今はビルのオーナーとして綱島商店街(綱島商店街連合会=中森伸明会長)の若手組織である「綱島一番会」で会長をさせていただいています。そのため、いかにして商店街に人を集めるか、ということが最大の仕事だと思っております。

 

港北区との関わりでは、20年ほど前になりますが、綱島小学校(綱島西3丁目)のPTA会長を務めさせていただいていました。当時、大阪で池田小学校の事件が起きたこともあり、小学生ら子どもの安全を守るため、港北区内でも「子ども110番の家」の制度を立ち上げようと当時の区長らとともに奔走したことがありました。

 

<司会>

 

妙蓮寺、綱島のお二方に続きまして、新吉田を拠点とされているエネショウの藤原さん、自己紹介をお願いいたします。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

エネショウの藤原さん
エネショウの藤原さん

私は生まれが東京の五反田ですが、2歳の頃に大倉山へ移り住んでいまして、それ以降は港北区です。大綱中学校(大倉山3丁目)へ通っている頃に新吉田東へ転居しましたので、卒業したのは新田中学校(新吉田東5丁目)になります。私自身は鶴見区の市立高へ進学しましたが、娘は地元の県立港北高校(大倉山7丁目)へ通いました。

 

元々オフィスなど“働く場所”をつくる「ファシリティマネジメント」の業界で仕事をしていまして、ファシリティマネージャーという資格を取り、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会の「エネルギー環境保全マネジメント研究部会」に所属していました。そこで、「省エネ(省エネルギー)」分野に携わりました。

 

そうした経緯もあり、2014年に独立した際には「エネショウ」と名付けて株式会社を立ち上げました。省エネを逆にして“エネショウ”です。

 

起業当初はクリーンエネルギーを広めたいとの思いがあり、水素とマグネシウムを合わせた「水素吸蔵合金(すいそきゅうぞうごうきん)」を使って事業を展開しようと思っていたのですが、その後、それを植物栽培に利用していくことになりました。

 

現在は障害のある方の仕事と収入を充実させることを目的に、室内で野菜を育てる「有機水耕(ゆうきすいこう)栽培」を事業として取り組んでおります。

 

有機水耕栽培は、大豆戸小学校(大豆戸町)の目の前にある「しんよこはま地域活動ホーム」という社会福祉法人横浜共生会(新吉田町)さんの施設で導入していまして、そちらに通われていらっしゃる方々と一緒に野菜を作っています。

 

室内での栽培ですので、雨が降ろうが真夏の炎天下だろうが冬の寒い日だろうが、快適な環境で野菜づくりが可能です。まさに障害のある方向けで、ともに取り組んでいるところです。

 

地域での活動としては、新吉田連合町内会の「新生町内会」(新吉田小学校の正門前付近をエリアとする町内会)で今は班長をさせていただいています。以前は、新吉田小学校での子ども向けイベントのお手伝いなどもしていました。

 

 

2.自社事業や活動と地域の関わり

 

妙蓮寺、綱島、新吉田、大豆戸町などで活動

 

<司会>

 

ありがとうございます。みなさんの事業と地域の関りといった面で、もう少し詳しくお話をいただけますでしょうか。

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

 

菊名橋交差点の菊名1丁目に移転した松栄建設
菊名橋交差点の菊名1丁目に移転した松栄建設

私たちはいわゆる“街の不動産屋”ですので、地域との関わりでは「賃貸管理」という事業が一番なじみ深いのではないでしょうか。妙蓮寺駅前の商店街を歩かれると、例えばテナント募集とか、駐車場の管理とか、そういった内容で「住まいの松栄」という看板を見ていただく機会があるのではないかと思います。

 

現在、駅前の寺院「妙蓮寺」さんが持たれている建物や土地の管理、また地域の地主さんやビルオーナーさんの物件管理などをさせていただいているところです。一般的な不動産売買として、家を購入される方の仲介も行っています。

 

このほか、「分譲建築」の事業もやっていまして、うちで土地を購入させていただいて、家を建てて販売するという形です。正式な社名が「松栄建設」ですので、もとは建設会社として創業していまして、今も自社スタッフ8人のうち3人は建築士です。

 

ほかには、妙蓮寺駅と菊名駅の中間あたりの富士塚でシェアハウスも運営していまして、この「シェアネスト東横」では60歳代の“おばあちゃん”が週に2回、ご飯を作りにきてくれるのが特徴で、“おばあちゃんの家事付シェアハウス”という一風変わったコンセプトです。

 

そのためか、色んなメディアに取り上げていただいて、テレビ朝日の『じゅん散歩』という散策番組の「新横浜・菊名・妙蓮寺・大倉山」(2018年6月放送時)が特集された時には高田純次さんにお越しいただきました。

 

その他の事業では、(今日会場となっている)こちらの「古民家HUG」の管理や地域活動を行う子会社「株式会社HUG(ハグ)」があり、そのつながりで、妙蓮寺の街を舞台に「まちの本屋リノベーションプロジェクト」を2019年6月に立ち上げています。

 

このプロジェクトは、“まちの本屋の新しいモデルをつくる”という目標で、妙蓮寺の駅前商店街にある老舗の「石堂(いしどう)書店」(菊名1丁目)さんとともに始めたものです。

 

妙蓮寺駅前の商店街にある「石堂書店」は創業70年の老舗。現在は2階にコワーキングスペースも生まれた
妙蓮寺駅前の商店街にある「石堂書店」は創業70年の老舗。現在は2階にコワーキングスペースも生まれた

石堂書店さんは、妙蓮寺周辺では有名な本屋さんで1949(昭和24)年の開店から70年以上の歴史を持っており、現在は3代目の智之さんが主に運営されています。

 

最初の出会いは、当社に雨漏りの相談に来られたのがきっかけでした。建物を見させていただくと建て替えたほうが良いのではないか、という話になったのですが、建て替えてもビジネスが上手くいってないと、費用を払い続けていくことは難しくなります。

 

港北区内でも個人で経営されていた多くの老舗書店が店を閉じられたように、書籍もインターネットでの販売が中心となり、“まちの本屋さん”の経営は年々厳しくなっています。石堂書店さんもそれは変わりません。

 

石堂さんと話していくなかで、これからも書店を持続していくためには、「まずは本屋さんのビジネスモデルをリノベーションしましょう」という結論に至りました。

 

私たちは建築分野を専門としていますが、本のことについては詳しいとは言えませんので、専門家として、港北区内で2014年から出版社「三輪舎」を営まれている中岡祐介さんに加わっていただき、さらには地域の協力者やクリエイターさん、Web専門家の方など多くの方の尽力を得てプロジェクトを立ち上げました。

 

全国から小口の出資を募る「クラウドファンディング」などを通じて300万円近い出資を得られましたので、このお金をもとに石堂書店の2階に「本屋の二階」と名付けた「コワーキングスペース」(シェアオフィス&読書スペース)を設けたり、書店の正面にあった建物を活用し、アートの展示も行っている「生活綴方」という新たな本屋さんを作ったりと、まちの本屋さんの新たなスタイルとして全国から広く注目いただいており、徐々に盛り上がりつつあるところです。

 

<司会>

 

ありがとうございました。今、妙蓮寺でまちづくりのさまざまな動きが始まっていることを酒井さんのお話しから実感できました。妙蓮寺周辺の篠原町は古くからの高級住宅街で、文化人が多く住んでいたと書籍『わがまち港北』にも書かれていました。まちの本屋さんが進化して、文化の受発信拠点となっていくことも妙蓮寺の街ならではといえそうです。

 

続きまして綱島の猿渡さん、お願いいたします。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

2020年3月に一新した綱島駅西口
2020年3月に一新した綱島駅西口

綱島に長年住んできた一人として、街を象徴するものは何かと考えますと、「駅」と「温泉」の2つではないかと思っています。綱島は1926(大正15)年に「綱島温泉」(現在の綱島駅)という名で東急東横線(当時は東京横浜電鉄)の駅が設けられ、その後に温泉旅館がたくさんできて栄えたという歴史があります。

 

温泉旅館があることで、周辺にはお茶屋さんができたり、海苔屋さんができたり、和菓子屋さんができたり、そして飲食店ができたりというところで、今の商店街が形成されました。

 

ただ、今は温泉も旅館も無くなってしまい、私が会長をつとめさせていただいている「綱島温泉町自治会」(綱島西1丁目などの自治会)といった部分にその名をとどめているだけで、名残りはほぼ無いんですね。

 

もう一度、綱島の歴史を考えながら、商店街をもり立てていこうという感じではおります。

  

1951(昭和26)年の開校から70周年を迎えた綱島小学校
1951(昭和26)年の開校から70周年を迎えた綱島小学校

そうした動きのきっかけとなるかどうかはわかりませんが、このほど、綱島小学校が1951(昭和26)年の開校から70周年を迎えまして、記念誌を作りました。

 

先日、記念式典など一連の行事が終わりまして、少々“抜け殻”のようになっているのですが、記念誌づくりなどを通じ、何百人というOBやOGの方に関わっていただきましたので、そういった人たちの人となりを知りながら、あらためて綱島の歴史を感じることができ、いい機会だったと思っています。

 

<司会>

 

先月(2020年11月)、綱島小学校で記念式典が開かれましたが、猿渡さんが実行委員長に就かれ、何年も前からバザーなどで資金を貯めたり、商店街には70周年を祝う横断幕やバナーを大量に掲出したりと、まさに「地域ぐるみ」といった感じで盛り上げていたのが印象的でした。

 

続きまして、藤原さん、よろしくお願いいたします。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

「しんよこはま地域活動ホーム」で有機水耕栽培を始める際にクラウドファンディングを活用
「しんよこはま地域活動ホーム」で有機水耕栽培を始める際にクラウドファンディングを活用

先ほど、酒井さんが「まちの本屋リノベーションプロジェクト」ではクラウドファンディングを使って300万円近く集められたとのお話がありましたが、私たちも「しんよこはま地域活動ホーム」で有機水耕(ゆうきすいこう)栽培を始める際、クラウドファンディングを活用しました。

 

「そんな安くはないお金がかかる」という部分をアピールしたくて、目標金額を1000万円に設定しましたので目標額の10分の1という形にはとどまりましたが、50人以上のみなさんから計110万円超を出資いただき、そのお金を使って昨年(2019年)夏から実際に室内で野菜づくりを始めています。

 

障害のある方が働いている姿は、街のなかで見かけることは少ないと思いますので、有機水耕栽培に取り組む姿をできるだけ地域の方に見ていただき、交流につなげていきたいとの思いもあります。

 

昨年(2019年)11月には、しんよこはま地域活動ホームのイベント「しんよこ地活の秋まつり」では室内栽培のレタスを披露し、来場した方に試食していただいています。

 

2019年11月の「しんよこ地活の秋まつり」では栽培したレタスの試食会も
2019年11月の「しんよこ地活の秋まつり」では栽培したレタスの試食会も

有機栽培ですから化学肥料や農薬は使っていませんので、皆さんから「すごい味が濃い、しゃきしゃき、しっかりしている野菜だ」という評価をいただきました。

 

また、菊名神社のとなりにある「野菜レストランさいとう」(菊名6丁目)さんではディナー会も行いました。しんよこはま地域活動ホームで作った野菜をメニューにしていただいて、招待客に食べていただくという形です。シェフからもすごく褒めていただきました。

 

最近は視察や問い合わせも増えてきまして、新たに就労継続支援型の施設をつくるという方や、地方からは廃校後の校舎ででできないかといったお話もありました。つい先日は鹿児島県の方からも問い合わせがありましたので、オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」でお話をしようと思っています。

 

<司会>

 

ありがとうございます。私も昨年(2019年)11月の「しんよこ地活の秋まつり」で早速レタスを試食させていただきましたが、濃く美味だったので、焼肉に巻いて食べたら最高ではないかと思ったものでした。今年(2020年)は開催できなかったのは残念です。

 

 

3.新型コロナの緊急事態下での事業・活動は?

 

個人経営のお店を救うためにどうすればいいか

 

<司会>

 

今年(2020年)4月から5月にかけての緊急事態宣言により、みなさんの事業や活動も大きな影響を受けたのではないでしょうか。どう対応したのかをお話しいただけたらと思います。

 

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

 

新型コロナの影響で、個人で経営されているお店を閉じようという動きもありまして、そんなお話を伺いながら、オーナーさん(貸主)との間も取り持っていくので、そういう面では大変な部分がありました。

 

私自身、まちづくりでは個人店が非常に重要だと思っていまして、猿渡さんが綱島で経営されていた「自由亭」もそうでしたが、街には地域の方が経営する個人店があったうえで、そこに全国チェーン店が点在している姿が一番理想的じゃないかなと考えています。

 

新型コロナの影響が長引くと、特色ある個人店が耐えられなくなって店を閉じざるを得なくなり、体力のある全国チェーン店だけが街に残るという状況はどうしても避けたいとの思いがあります。

 

そのため、資力のあるオーナーさんには「新型コロナでテナントさんの売上が下がっていますので、賃料を協力してもらえたら嬉しいです」といったお願いは、できる範囲でやってきました。

 

オーナーさんにとっても空室率が上がりませんし、最終的には街の価値を下げないことにもつながります。

 

春の第1波は何とか乗り切ったんですけど、また最近は感染者数が増えてきているので、まだ先が見えていないという状況です。

 

<司会>

 

都心部は企業のテレワークもあって人が減っていて非常に大変というお話は聞きますが、影響は大きいのですか。

 

妙蓮寺駅の駅前に広がる商店街(2020年11月)
妙蓮寺駅の駅前に広がる商店街(2020年11月)

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

 

仲間の不動産屋さんから聞いたのですが、都内でチェーン店などの店舗を扱っている方によると、繁華街はビジネスモデルが成り立たないとの考えからチェーン店の退店リスクが高まっている一方、ローカル駅へ出店する方向に転換し始めているとの話もあります。

 

そういう流れも出てきたので、ベッドタウンの駅に関しては、今まで都内にしかなかったようなお店の小型版が出てくる可能性も出てきたかなとは思っています。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

私も先日、ある全国チェーンの事業部長さんと話をしたのですが、やはり都内のターミナル駅から撤退したというお話はありましたね。学生さんも訪日客もいないので苦しいということでした。地方の駅には店を残して、賃料の高い都心から撤退する、という流れになっているようです。

 

<司会>

 

なるほど、都心部は大変な状況です。綱島も駅前を中心に飲食店の数が多いのですが、状況はどうですか。

 

綱島は夜を主戦場とする飲食店も多く、新型コロナ前は賑わっていた(2019年6月)
綱島は夜を主戦場とする飲食店も多く、新型コロナ前は賑わっていた(2019年6月)

 

 <猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

綱島でもほとんどの飲食店は厳しい状態です。もう数件、商売をやめられていますし、今度の“第3波”が来たらどうなるのか……。家賃交渉も、地主さんにもそこまでの余裕があるかというところもあります。

 

<司会>

 

綱島で活発に行われている商店街や街のイベント開催も厳しかったですね。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

夏の恒例となっている「つなしまサマーフェスティバル」も2020年は開催できなかった(2019年7月)
夏の恒例となっている「つなしまサマーフェスティバル」も2020年は開催できなかった(2019年7月)

綱島では2月に綱島市民の森(綱島台)での「綱島桃まつり」から始まり、3月は綱島公園(綱島台)での「綱島公園桜まつり」、夏は西口商店街での「ナイトフリーマーケット」「綱島サマーフェスティバル」など、自治会・町内会主催の催しも含めると毎月1回は何らかの行事をやっている街でしたが、今年(2020年)は、ほぼ中止です。

 

商店街の若手が集まる「綱島一番会」では毎年、綱島サマーフェスティバルの開催を主導しているのですが、今年は初めて中止になりました。しょうがないから中止になったこと自体を宣伝しちゃおうということで、チラシを作って配ったこともありましたね。

 

<司会>

 

藤原さんの有機水耕栽培は、新型コロナウイルスの影響はありましたか。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

大豆戸小の至近にある「しんよこはま地域活動ホーム」(2019年11月)
大豆戸小の至近にある「しんよこはま地域活動ホーム」(2019年11月)

この取り組みは、地域の方々に広く見ていただくことが大事だと考えていましたので、春から試食会などのイベントを企画していたのですが、残念ながらすべて中止とせざるを得ませんでした。

 

ただ、FacebookやInstagram(インスタグラム)、TwitterなどのSNSで情報は発信し続け、またZoomなどを使って興味を持たれた方とは直接お話しするようにはしています。

 

 

4.新型コロナ禍でのIT活用をどうしたか

 

リモート勤務が地元にもたらす可能性

 

<司会>

 

ありがとうございました。皆さん、何らかの形で新型コロナウイルスの影響を受けていたことが分かりました。

 

今、藤原さんから新型コロナ禍で人を集めたイベントが難しいので、SNSでの情報発信を続けているというお話が出ましたが、今回の緊急事態宣言下ではどのようにITを活用しましたでしょうか。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

綱島商店街の事務所でもドアを開け放して会議を行っている(2020年7月)
綱島商店街の事務所でもドアを開け放して会議を行っている(2020年7月)

商店街のメンバーも事務局でもIT機器は買うのですが、みな近い場所で商売をしていたり、住んでいたりしますし、付き合いも長いので、活用する前につい実際に会ったほうが早い、ということになってしまいます。

 

<司会>

 

お祭りを見ていても、綱島の皆さんの結束力が強いことはよく分かります。IT活用の面では、商店街のホームページ「綱島もるねっと」は、1990年台の後半から「tsunashima.com(ツナシマ、ドットコム)」という分かりやすいドメイン(URL)を取って運営しているように、先進的なイメージがありますが。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

綱島は土地柄なのか、街が好きな人は多い気がします。派手で祭り好きというような、そういう血が流れているんでしょうね。確かに商店街ではホームページやSNSでの情報発信は積極的です。

 

ただ、会議をメッセージングアプリ「LINE」のグループトークでやろうとしたことがあったのですが、みんなで変な「スタンプ」を送りあったりしてつい遊んでしまうんですよね……(苦笑)

 

これはいかん、次は「Zoom」で会議をやるぞ、となりました。どうしても慣れない人だけ商店街の事務所に来てください、と言ったら結局、全員が事務所に集まってしまったなんてこともありました。

 

みんな意思疎通は比較的よくできている間柄なので、支障こそないのですが、IT活用という面では課題だと感じています。

 

<司会>

 

どうしても顔を直接見たいという思いがあるんですね、お気持ちは分かります。藤原さんはいかがでしょうか。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

 

緊急事態宣言中もホームページやSNSなどで発信を続けた(エネショウの「有機水耕栽培」紹介サイト)
緊急事態宣言中もホームページやSNSなどで発信を続けた(エネショウの「有機水耕栽培」紹介サイト)

有機水耕栽培は室内農業なので、栽培自体には新型コロナの直接的な影響はありませんでした。ただ、ITの活用面で言いますと、福祉施設はなかなかインターネットでのやり取りが難しい場合もあります。

 

リアルタイムで植物の状態とか知りたいと思うこともあるのですが、業界柄なのでしょうか、職員の方は個人メールアドレスが無いケースも多いのです。

 

<司会>

 

福祉分野は現場に出ておられる方が多いせいでしょうか、IT活用面では施設ごとにも温度差がありますよね。新型コロナ禍での事業について、酒井さんはいかがですか。

 

東横線・妙蓮寺駅、都心方面への通勤客も多い
東横線・妙蓮寺駅、都心方面への通勤客も多い

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

 

不動産や関連業界を俯瞰してみますと、外出自粛で皆さんが外へ出られなくなった影響もあって、リフォームなどの面ではすごい忙しくなっているんですね。私たちも含め、それはたまたま新型コロナ禍でも生き残れる業種だったというだけで、努力で何とかなったかというと、そんなことではないと正直思っています。

 

たとえば、飲食店の方はどれだけ努力しても、政府が営業の自粛を要請するくらいですので、頑張りようがないわけです。業界的に恵まれているからこそ、私たちができることをやっていかなくてはならないと痛感しています。

 

IT活用の面で言いますと、Zoomを通じて“ご来店”いただいくこともあり、そうしてお越しになったお客様と普通に今もつながっていますので、引き続き活用しています。

 

先ほどお話しした、妙蓮寺の石堂書店さんとの「まちの本屋リノベーションプロジェクト」では、本屋さんの2階に「コワーキングスペース」を新たに設けることができましたので、都内に通勤しなくても地元で働けるという流れをつくりたいと思っています。

 

地元の妙蓮寺で働くことで、人口が何十パーセントか増えれば、最終的には地元にお金を落としてくれ、商業が好循環するという、そういう流れをつくることが可能になります。

 

<司会>

 

ありがとうございます。在宅勤務(テレワーク)の広まりにより、都内への通勤が多い東横線沿線ではコワーキングスペースの需要はかなり増えているとの実感があります。

 

勤務先は都内であっても、日中は多くの方が港北区内で業務を行うような環境になれば、地域により目を向けていただけるのではないかと期待しているところです。

 

 

5.地域まちづくりと事業を考える

 

港北区で事業を営むメリットを考える

 

<司会>

 

最近、みなさんの事業活動や地域活動で課題といいますか、考えていることはありますか。

 

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

 

課題ではないのですが、今、研究や実験などに使える「ラボスペース」がほしいと思っているところです。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

綱島には適した物件は数多くあるのですが、賃料が高いのが難点で、ちょっとした“バブル”状態です。鉄道(東急新横浜線=相鉄・東急直通線)と新駅(新綱島駅)の開業(2022年10月~2023年3月に開業予定)を控えていて、傍から見ると良さそうに見えるのかもしれません。

 

<司会>

 

やはりオーナーさん(大家さん)の地域やまちづくりに対するご理解という部分も大切になってくるのでしょうか。

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

 

その土地に古くから土地を所有されている方がたくさんいらっしゃっても、全員がまちづくりを活動としてできるかというと、難しい場合もあります。たとえばご高齢であったり、そうした経験がなかったりといった事情もあるのではないでしょうか。

 

そのため、「所有」と「管理」は分けたほうが良いのではないか、と考えています。

 

地元の例で言いますと、妙蓮寺の街は、その名の通りお寺の「妙蓮寺」さんの名が由来ですが、もともと寺の境内を無償で東急電鉄(当時の東京横浜電鉄)に鉄道用地として提供したことで、駅ができて、発展した歴史があります。

 

その妙蓮寺さんが持っている土地の管理をさせていただいているのですが、最近、駅近くの商店街に空き家が出て、更地に戻さなければならなくなったことがありました。

 

妙蓮寺駅では、「駐輪場」が駅から少し離れた菊名池近くにあって、歩いて4~5分かかるんですね。朝の4~5分は重要なので、駅近くの商店街の土地を「コイン駐輪場」にしませんかと妙蓮寺さんにご提案したところ快諾いただき、ワンコイン駐輪場が新たに生まれることになりました。

 

駅近くの商店街内に駐輪場ができることにより、利用者の方の利便性が高まるのはもちろんですが、その方たちが通勤や通学時に商店街を通ることになりますので、新たな人の流れも生まれるんですね。

 

こうした方向性みたいな部分を土地所有者の方がすべて考えなければならないのは大変です。土地を所有されている方は、先祖代々から守っていくという重い責任感を抱えていらっしゃるケースが多いので、そういう方々にまちづくりの面も含めて全部をお願いするというのは非常に酷な話だと思います。所有と管理を分けるというのが、適切なあり方ではないかと思います。

 

駅を降りてすぐに「妙蓮寺」がある
駅を降りてすぐに「妙蓮寺」がある

<司会>

 

地主の方は先祖からの土地を守らなければならない、という大きなミッションがあるだけに、「所有」と「管理」は別の方が行ったほうが良い、というのはなるほどと思いました。また、妙蓮寺の駐輪場は水道道に近い菊名池公園プール付近なので、スーパー「オーケー妙蓮寺店」よりも駅から遠い。毎朝の自転車利用となるとちょっと大変な気持ちは分かります。駅近くにコイン駐輪場があれば嬉しいですよね。

 

駐輪場の問題といえば、かつて綱島駅の周辺は放置自転車の問題が深刻でした。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

 

今は綱島駅前で違法駐輪はほとんどありません。また、これから開業を予定する新綱島駅には地下に約1000台規模の駐輪場も設けられる計画となっています。

 

駅前に放置自転車が少なくなったことは喜ばしいのですが、商店街の立場から考えると、商店街周辺での駐輪は必ずしも“絶対悪”とは言えない事情もあります。綱島駅前で違法駐輪がひどかった時代と比べると、今は商店街の売上が若干落ちているという面も見えてきます。自転車で気軽に訪問しづらくなってしまったんですね。

 

駐輪場というのは人の流れが変わるんです。流れが変わるということは、喜ばれる人もいる一方、残念だと思う人もいて、商店街としてトータルに考えるとなかなか難しい面もあります。

 

そういう意味で、酒井さんが妙蓮寺さんのご理解を得て、商店街にコイン駐輪場を新設されたことを聞けたのは、興味深かったです。

 

<司会>

 

ありがとうございます。藤原さん、地域と事業などの面で何かお話をいただけますでしょうか。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

 

以前、私どもは関内に事務所を構えていたのですが、やはり横浜市の中心部ですので、つながりやネットワークは築きやすい面がありました。港北区ならではメリットとは何か、という部分を考えてみたのですが、私の場合は地元の法人や団体とのつながりでしょうか。

 

今回、こうしたイベントへ出させていただいたのもそうですし、港北区は「ものづくり企業」が多く、室内農業にも使える「LED」を作っているメーカーが綱島にありますので、一度相談をしてみたい。

 

また、最初に有機水耕栽培を導入していただいたのも新吉田に本部を置く横浜共生会さんの施設でした。地元にこだわることによって、逆に運が向いてきたというか、事業の展望が開けてきたなと最近すごく感じています。

 

<司会>

 

港北区の企業がつくった機器を使って、区内の福祉施設で室内農業を営み、区民が野菜を消費する、そんなサイクルができればいいな、と願っています。

 

猿渡さん、地域と事業という面で何かありますか。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

綱島駅前のビル2階で猿渡さんが2016年12月まで営業していた洋食レストラン「自由亭」
綱島駅前のビル2階で猿渡さんが2016年12月まで営業していた洋食レストラン「自由亭」

 地域で飲食店を30年間やってきまして、今だから思うのは、地域で繁盛する飲食店をつくるのは、そんなに難しくないのではないかということです。

 

シンプルに考えると、おいしい料理を作り、それに見合った値段で提供し、お店が小ぎれい――そんなところですかね。これさえできていれば、お店は繁盛するんです。立地はあまり関係ないです。この3つのうちの2つがだめで、1つが飛び抜けて良くても繁盛するはずです。

 

もう一つ大切なのことは、やっぱり地域で人と人とのつながりを作ることです。一番手っ取り早いのは、その街で開かれている行事にはすべて顔を出す、ということでしょうか。

 

私の場合、朝の9時半から夜の10時半まで、休憩の1時間以外はずっと調理場にいなければならなかったのですが、無理やり奥さんに調理場を任せ、PTAだろうが街の行事だろうが、何でも顔を出していました。大変だけど、やれば必ずそれだけのものは返ってくるという実感はあります。

 

あと、言い方が変ですけれども、地域の事業で儲けないことも大事ですね。儲けようと考えてはいけない、ということでしょうか。

 

新たに飲食店を志す人たちには、そんなお話をしているところです。

 

<司会>

 

行事には必ず顔を出してつながりを作り、そして儲けてはいけない、30年間続けてきた方の言葉だけに重みがあります。ありがとうございます。

 

 

6.今後の目標・展望、地域での事業に思うこと

 

「ローカル化」という価値観が重要に

 

<司会>

 

最後に今後の目標や展望などをお話しいただければと思います。

 

<藤原雅仁さん:株式会社エネショウ(新吉田東)代表取締役>

「しんよこはま地域活動ホーム」での有機水耕栽培の様子(2020年11月)
「しんよこはま地域活動ホーム」での有機水耕栽培の様子(2020年11月)

今、取り組んでいる有機水耕栽培は、誰でもどこでも野菜を作れるという特徴があります。現在は障害のある方に作っていただいていますが、今後は高齢の方など幅広い層に挑戦していただきたいと考えています。

 

また、提供者側としては単に「作る技術」を売るだけでは絶対にだめだと思っていまして、途中で挫折することのないよう、サポートの部分に力を入れていきます。

 

加えて、私自身が福祉の現場をよく理解しておかなければならないという思いがあり、今、自閉症の方が5人ぐらいで暮らしている横浜共生会さんのグループホームで、生活支援員として定期的に勤務させていただいているところです。

 

この経験を通じ、分かったことがあります。最初は栽培に関する作業を「できそうな人」にやってもらおうと考えていたのですが、それは違った。逆に「この人は絶対にできないだろう」と思っていた人に作業をしてもらったほうが良いということです。

 

どんな簡単なことでもいいのでやってもらうと、簡単なことができると、その人の自信になって、次第に笑顔が出てくるんです。

 

今、栽培を行っている「しんよこはま地域活動ホーム」でも、今まで笑ったことがなかったような人だったのに、笑顔で作業に取り組んでいただけるようになったことがあり、施設長さんからも「この笑顔を見られただけでも、有機水耕栽培に取り組んだ甲斐があった」と言っていただけたのは、非常に嬉しかったです。

 

これからも、有機水耕栽培をさらに広めていきたいと思っています。

 

<司会>

 

ありがとうございます。藤原さんが取り組まれている有機水耕栽、いわゆる「室内農業」は、障害を持つ方の収入源を拡大できる可能性だけでなく、新たなやりがいにつながっていることをお聴きできたのは非常に心強かったです。

 

続いて猿渡さん、お願いいたします。

 

<猿渡功さん:綱島商店街「綱島一番会」会長>

今までは「良き時代の綱島」ということで済んでいた部分はあったのですが、今後はそうはいかなくて、地道に目の前のことを見つめて考えながら進めていかないと、これからの綱島に発展はないということをすごく感じています。

 

それは結局、最終的にはコミュニケーションであって、そこを大切にしながら、街としてどうやって発展していくかを考えていくべきだと思っています。

 

今、コロナ禍でほとんどの行事が中止になっていることもあって、考える時間がおのずと増えてくるんですよね。そういったなか、いろいろな仕掛けを考えながら、5年・10年・100年と続くようなものを残していきたいところです。

 

<司会>

 

ありがとうございます。綱島は大正時代から「桃」「温泉」「商業」と繁栄が長く続いていますし、この先も新駅の開業や再開発で発展が期待されています。それだけに気を引き締めて、長期的な視野で物事を考えていかなければならない、そんなことを痛感させられました。

 

最後に酒井さん、お願いいたします。

 

<酒井洋輔さん:松栄建設株式会社(妙蓮寺)代表取締役>

今回の新型コロナ禍にうち勝てたとか、乗り越えたとかまったく思っていないのですが、そうは言っても人生は続きますし、日々暮らしていかなければなりません。この間の経験で、何らかの気付きを得て前へ進んでいきたいと思っています。

 

今、グローバル化が激しく進んできたと言われていますが、新型コロナ禍もあって、逆に「ローカル化」という面も進んできているのではないかと感じます。

 

グローバル化が進んだ世界では、1人とか2人とか少人数の「勝者」しか生まないのですが、ローカルという世界はそうではありません。

 

たとえば、うちの会社なんかは、妙蓮寺ではそれなりにお客様に知っていただけるようになってはいるのですが、日本全体や世界で考えると全然知られていない。でも、それでいいと思っていて、地域という枠組みのなかで、地域のことだけを考えられるわけです。

 

日本一や世界一になることが必ずしも良い選択ではなく、地域ごとに「小さなローカルスター」みたいな企業がたくさん出てくることが、これからの時代で大事なのかもしれない、今回のコロナ禍でそんなことを感じました。

 

私たちも、地域の中で身近な人の役に立つということを大事にしていきたいですし、今後もそうあるべきだと思っています。

 

<司会>

 

ありがとうございます。たとえば「IT」のなかでもインターネットの世界などは、トップに躍り出た勝者がすべてを“総取り”とするような傾向が顕著で、そこを目指すことが是とされています。しかし、今回の新型コロナ禍を機に、地域ごとに最適化された「ローカル化」という世界がより大切になってきた、酒井さんのお話からそんなことを教えていただきました。区内に「小さなローカルスター」をたくさん生み出すためにも、私たちも頑張っていかなければと感じたところです。

 

最後に港北区の両課長からコメントをいただけますでしょうか。

 

第6回「つなぎ塾トーク」の会場となった「古民家HUG(ハグ)」は妙蓮寺駅前とは思えないほど自然が多く残る
第6回「つなぎ塾トーク」の会場となった「古民家HUG(ハグ)」は妙蓮寺駅前とは思えないほど自然が多く残る

<港北区高齢・障害支援課・中村秀夫課長>

 

みなさんのお話を伺い、あらためて「つながり」がキーワードであると感じさせられました。昨年から「セカンドキャリア地域起業セミナー」を開催させていただいたなかでも、少しずつつながりを持ち、そこから広げている方もいらっしゃいます。

 

我々としても、一緒にできることは何かをさらに考えていきたいと思っているところです。本日はありがとうございました。

 

<港北区地域振興課・小林野武夫課長>

 

今日のお話に出てきたように、今回の新型コロナ禍も逆に新しい気づきを与えてくれ、地元に目を向けることで新しいチャンスが生まれる、そんな非常に示唆に富んだ内容でした。

 

地域内はもちろんですが、さらに区役所ともつながっていただければ幸いです。本当に今日はありがとうございました。

 

(「つなぎ塾トーク」第6回:開催日2020年12月21日)