つなぎ塾トーク<第2回:菊名北町の今>

大規模町内会での広報・情報共有のあり方とは

一度に多くの人を集めることが難しくなるなど、新型コロナウイルスの影響で、地域活動のスタイルに変化が迫られています。「港北つなぎ塾」でも毎年冬に一同に集まる形での連続講座はいったん中断し、区内における地域団体の現状と対策法を実際に活動されている方々に尋ね、文章や画像などの形で情報を共有していく「つなぎ塾トーク」を個別に始めました。

つなぎ塾トークの第2回は、ホームページや紙媒体を通じ、積極的な情報発信を行っている「菊名北町町内会」(約3000世帯加入)です。

 

菊名駅周辺の菊名4~7丁目をエリアとする同町内会で、2019(令和元)年度から会長をつとめる長井貞道さんに広報のあり方や、新型コロナ禍をうけての対応策などを伺いました。

(2020年10月8日公開、9月15日開催)

<お話を聞いた方>

 

 

<司会・構成>

  • 港北区地域振興課 地域力推進担当
  • 一般社団法人地域インターネット新聞社(横浜日吉新聞・新横浜新聞)
  • 写真:新横浜新聞~しんよこ新聞撮影

1.「菊名北町」地域の現状とは

 

菊名駅周辺で相次ぐインフラ変化の動き

菊名神社例大祭時の菊名駅東口
菊名神社例大祭時の菊名駅東口

<司会>

 

本日はありがとうございます。長井さんは菊名で会社を立ち上げ、ご商売をされているんですね

 

<長井貞道さん:菊名北町町内会会長>

 

もともと大阪市の出身ですが、会社員として東京へ来まして、その後に独立し、菊名で会社を営んでいます。

 

18年ほど前に菊名で家を持ち住み始めまして、近隣の方から「スポーツ推進委員」になってくれませんか、とのお話しをいただいたことを機に地域で活動しています。「一人欠けるから誰かいないか」ということで話しが回ってきたのがきっかけでした。

 

地域活動の核となっている「町内会・自治会」の話をしますと、どこの町会も同じだと思いますが、高齢化という一つの課題があります。今から30年ほど前に各エリアの町内会・自治会が活性化し、当時40歳代くらいの方々が重要な役割を担ってきました。

 

その方たちが高齢となり、リタイヤされて中間層が空洞化しています。

 

また、活動を維持していくためには、先人に倣(なら)い、良い形で進んできたとは思いますが、世の中も変化しています。町内会や自治会は、残念ながら依然昔のままで動いているので、内容が変わっていない。

 

ちょうど私は、その“中間系”で入っちゃったわけです。

 

スポーツ推進委員は、地区の会長も含めて計8年間にわたってつとめさせていただきました。その間に町内会の副会長をさせていただき、一昨年には会長となりました。

 

さきほど申し上げたように、私は菊名の生まれでなく、違う地域から来ています。なおかつ、菊名北町町内会の役員としては一番年が若かったので、若い人が会長になるのはどうなの、という話は当然ありました。

 

ただ、会長就任の1年半ほど前に、会長代理ということで「菊名北町盆踊り大会」(港北図書館前で毎夏開催)や、菊名神社の例大祭(毎年9月中~下旬開催)などの責任者にしていただいていたので、街の人には顔が見えていたのかもしれません。総会でも反対はありませんでした。

 

綱島街道の神奈川区方面から菊名四丁目交差点と「菊名歩道橋」を望む、見通しが良くない
綱島街道の神奈川区方面から菊名四丁目交差点と「菊名歩道橋」を望む、見通しが良くない

<司会>

 

2019(平成31)年度に会長として選出された長井さんですが、町内会がエリアとしている「菊名北町」は菊名駅周辺という交通の重要地点であり、港北区の主要な市街地です。取り組まなくてはならない事柄も多いのではないでしょうか

 

<長井貞道さん>

 

菊名駅の近くに旧綱島街道綱島街道が交差する「菊名四丁目交差点」があるのですが、この交差点をどうしていこうか、という課題があります。

 

ここに古い歩道橋(菊名歩道橋=1968・昭和43年設置)が設置されているのですが、当初は廃止される予定だったのが、今年春には残される方針に変わりました。今でも駅方面へ往来する歩行者が多いうえ、小学生も通学で横断する交差点ですから、警察や行政と話し合って安全対策を考え直さなけれなりません。

 

それから、綱島街道沿いにあった菊名4丁目の「横浜市医師会看護専門学校」(菊名記念病院の隣接地)が2018年3月に鶴見区へ移転したため、市有地の跡地活用の動向も注視しています。

 

菊名北町の拠点防災は、菊名小学校(菊名5丁目)となっているのですが、丘の上にあります。高齢者も多い街ですから、跡地にサブ避難所を確保できないかということを行政に要望し、検討を進めているところです。

 

その菊名小学校ですが、市が1968(昭和43)年に建てた校舎を建て替える方針を打ち出しており、具体化へ向けて地域でも意見を出していかなければならないでしょう。

 

このほかにも、消防団の積載車を収容する消防小屋と防災備蓄庫を新たに「菊名いちょうの広場」(菊名地区センター近くの広場)で整備を行っているところです。

 

インフラ面で街が変わり始める時期に当たっていまして、そういう意味では会長職は大変ですね。

 

2.地域活動における「広報」の現状とは

 

情報伝達の重要ツールはホームページに

 

<司会>

 

菊名北町町内会は、紙媒体やインターネットなど広報面に力を入れていますが、現状はどのようになっていますか

 

年に4回発行している広報紙「菊名北町広報」(菊名北町町内会ホームページより)
年に4回発行している広報紙「菊名北町広報」(菊名北町町内会ホームページより)

 

<長井貞道さん>

 

広報紙「菊名北町広報」は毎年3・6・9・12月に発行しています。また、ホームページ上でも公開しています。

 

そのホームページは、昨年(2019年)秋に広報部メンバーの宮森さん、寺本さんを中心に町内会が独自で開設しました。

 

町内会からのタイムリーな情報発信手段としては、毎月1回「回覧板」で各家庭へまわしていくことと、街のなかにある「掲示板」に紙を掲出するというスタイルが一般的で、ほぼこの2種類しかありません。

 

しかし、自宅に回覧板が来ても、ハンコを捺すだけで見ない人が多く、掲示板も立ち止まらないという人が大半じゃないのかな、との思いがあります。

 

町内会活動では、情報伝達がもっとも大事です。これをどう実現させるかと考え、ホームページを開設したのですが、どうしても高齢の方には見ていただけません。

 

統計なんかを見ると、70歳以上の方もかなりの割合でパソコンを使っているというデータもありますけど、私の周辺では、スマホを持っていないという人たちが多いんですよね。

 

そういうことは理解していながらも、情報伝達の重要なツールとしてはホームページしかない、というのが結論です。

 

2019年秋に菊名北町町内会が独自で開設したホームページ
2019年秋に菊名北町町内会が独自で開設したホームページ

<司会>

 

ホームページを使った情報発信の活発化をどう考えていますか

 

<長井貞道さん>

 

私はホームぺージの役割は「町内会の情報」を流すことではなく、「防災の情報」や「街の情報」を発信することだと考えています。

 

このホームページに来れば、発災時はもちろん、地区センターやコミュニティハウス、学校、商店街といった情報がなんでも載っているという状態にすることがゴールで、「町内会の情報だけを流しても、誰も見に来てくれない」と言い続けています。

 

高齢者の方が見られない、という問題については、まずは若い人たちに見てもらって、同居している両親に伝えてもらう。もしくは、近隣の方から伝達していただくコミュニティの輪が必要と思っています。そのためにも、基本的には若い方に見ていただけるような情報を発信していく必要があると思います。

 

「紙」の広報紙についても、ホームページと同じ方向で変えていこうと検討しています。町内会が何をやった、こんなことやっている、ということも一つの情報ですけども、それよりは、地域の情報が載っているというのが理想です。

 

今は年に4回、広報紙を出していますけど、年に2回でもいいから、捨てられないような情報を載せなければいけないと感じています。

 

ただ、課題はホームページにせよ、広報紙にせよ、原稿が集まらないということです。箇条書きでもいいよ、と言っても出てこない。文章を書くのが苦手だという面もありますし、写真は顔が映ってしまうと、出せないといった側面もあります。

 

ホームページに点数を付けるとしたら、今はまだ「20点」程度で、ようやく出来上がったなぁ、というくらいです。

 

同じ菊名で、妙蓮寺駅周辺をエリアとする「菊名南町」(菊名1~3丁目)もホームページを開設しているのですが、立派な内容ですごいな、と思っています。

 

3.「コロナ禍」で連絡・広報体制をどうしたか

 

「予定通り」に実施できた行事が無い状態

 

<司会>

 

春以降の新型コロナ禍で、イベントなどの活動はどうなりましたか

 

<長井貞道さん>

 

菊名北町町内会では、予定通りに実施できた行事は無い、という状態です。少し落ち着きを見せている今なら実施してもいいのかもしれませんが、もし何かあったら、多くの方にご迷惑をかけてしまいます。

 

子どもさんだけが参加するような行事でしたら検討の余地はありますが、ご高齢の方も多いのでなかなか難しい。

 

ただ、自粛しすぎたかな、という思いもありまして、どのタイミングかは分かりませんが、今期中(来年3月)までに何かを仕掛けたいという考えを持っており、密かに準備はしています。

 

防犯活動は、緊急事態宣言中は止めていましたが、今も毎週1回、町内会の防犯部の人たちが巡回してくれています。夏場は大変なので回数を減らしたのですが、犯罪の抑止力になるので、できるだけ活動を行っていただいています。

 

<司会>

 

新型コロナ禍を受け、町内会での会合や連絡体制、広報面はどうしていますか

 

菊名7丁目にある菊名北町の町内会館
菊名7丁目にある菊名北町の町内会館

<長井貞道さん>

 

町内会には理事が38人と人数が多いので、理事会は開けていませんが、毎月10日には町内会の集会所へ集まってもらい、検温をしたうえで配布物を手渡す、ということはしています。その際、役員だけ残って少人数で役員会を実施しているのが現状です。

 

連絡体制で言いますと、役員はほとんど電話で連絡していて、今でも“伝言ゲーム”状態ですね。

 

理事さんのなかでは、メールで連絡を取れる人が少なく、役員間でも同じ状況です。「LINE」(通信アプリ)を使うなんていう状況にはありません。

 

そんな現状なので、アナログですが、FAXで連絡を取ることにしたのですが、理事のみなさんにFAX番号を教えてください、とお願いしたのですが、回答があったのは数人です。電話番号を伝えたくない、FAXが無い人もいます。

 

簡単なことが一番ハードルが高いんじゃないかなと感じているところです。

 

広報面では、コロナ禍となり、ホームページを開設していたことは先手を打てたかな、と思います。

 

ただ、ホームページで情報発信はできるのですが、人の顔が見られないというのはつらい面がありますね。

 

4.「コロナ禍」を踏まえ、今後の体制をどうするか

 

行事や活動をすべて洗い出す作業を開始

 

<司会>

 

 今回のコロナ禍では、さまざまな課題が見えたとのことですが。今後の町内会活動はどのように展開していくことを考えていますか

 

<長井貞道さん>

 

菊名北町町内会に「企画部」というセクションを作りまして、ここには広報担当も含め5人で活動しています。会社で言えば経営企画部といった位置付けです。

 

現在、運営している行事や活動をすべて洗い出し、運営方法などをあらためて考えているところです。

 

たとえば、夏の「菊名北町盆踊り大会」では、街の役員の人たちが太鼓を叩く「やぐら」を組んで、事前準備をすべて行っています。開催当日は模擬店の手伝いもして、終わったら片付けて、全部やっているわけですよ。

 

今、1日に1000人以上が来場する大きな祭りになっているのですが、「これって我々がやる話なの?、もう街の盆踊りじゃないの?」という発想があってもいいんじゃないの、という部分から議論しています。

 

例えば、盆踊りや大型イベントは、町内会が単独で実施するのではなく、街で実行委員会をつくったり、スポンサーを集めたり、街全体で動く仕掛けをつくっていかなければならない段階かもしれません。

 

毎年1000人以上の来場者でにぎわう「菊名北町盆踊り大会」(写真は2018年)
毎年1000人以上の来場者でにぎわう「菊名北町盆踊り大会」(写真は2018年)

<司会>

 

街全体を巻き込めれば関係者が増え、担い手不足に対応できる道も開けますね

 

<長井貞道さん>

 

多くの町内会・自治会は、活動の歴史が長いだけに、ずっと昔から続けてきた活動のボリュームに、人口も増えて対応できなくなってしまっています

 

私たちもそうした問題意識から、行事や活動を全て「棚卸し」することによって、できることと、できないこと、実施するなら「こうすべきだ」ということの議論を始めたものです。

 

近隣の町内会長には、「もう、町会の垣根もなくてもいいんじゃないの」といった“ぶっちゃけ話”もしていますね。

 

たとえば、「子ども会」は町内会に紐づいているので、同じ学校内でも児童間で異なってしまいます。でも、子どもからしたら、同じ学校の友だちなので、線引きは関係ないですよね。我々大人が線引きしてしまっている。エリアの線引きをもう少し緩くしてもいいのではと思ったりします。

 

<司会>

 

「子ども会」で言えば、港北区内でも担い手不足から、維持すること自体が難しくなっている町内会・自治会も出ています

 

<長井貞道さん>

 

役職に就いていただいた方は、本当によく活動してくれるのですが、「来年もお願いできる?」というと、「今年頑張ったんですよ、子どもがまだ小さいから難しい」という回答が一般的です。

 

何人かは役員として残ってくれることがあって、子ども会から町会に来てもらうケースもありますが、ほんの数人ですね。

 

根本的な課題と言えますが、町内会も子ども会も最大のネックは「ボランティア」でやっていることなんですね。

 

たとえば、ホームページに質問が来たとしても、誰が答えるのか、毎日誰がチェックするのかということになります。専任の方がいないので、問い合わせフォームは設置できない。

 

昔だったら、町会事務所があれば「管理人さん」がいて、電話でも、訪ねてきても、「こうですよ」と答えた時代があったと思うのですが、今はそういう状況じゃありません。

 

5.地域団体間の連携をどうするか

 

緊急事態にも対応できる情報連携が重要

 

<司会>

 

先ほど、「街全体の連携が重要」というお話がありましたが、商店街や子育て・高齢者支援の分野との連携はどうしていますか

 

商店街加盟マークのある店舗で使える金券をお礼として渡すこともあるという
商店街加盟マークのある店舗で使える金券をお礼として渡すこともあるという

 

<長井貞道さん>

 

菊名の商店街(菊名東口商栄会、70数軒加盟)と町内会は、見える形で連携しています。私も商店街のメンバーで、事務所の店頭にもステッカーを貼っています。

 

連携の一例を挙げると、町会委員の方に何かお手伝いしてもらったときに、商店街の「500円金券」をお礼としてお渡ししています。普通のお礼より、菊名の街にお金が落ちていくような仕組みが良いのではないか、という考え方です。

 

町内会エリアでは、横浜銀行菊名支店さんや芝信用金庫菊名支店さん(いずれも菊名6丁目)、菊名ドライビングスクールさん(菊名7丁目)、アマノ株式会社さん(菊名駅西口の大豆戸町に本社を置く一部上場企業)などの企業の皆さんも、盆踊りなどの際などにご協力いただいているところです。今後は防災の面も議論していきたいですね。

 

大豆戸地域ケアプラザ(菊名駅西口から徒歩8分の大豆戸町)など地域交流施設とは、町内会の保健部さん、民生委員さんが認知症予防の「スリーA体操」や高齢者対象の体操など、いろいろ市民活動で関わりがあります。

 

また、子育ての分野では、幼児の公園遊びや「読み聞かせ」を実施していただいています。

 

今年はコロナ禍で、菊名小学校PTAの会長の方との懇談もできていない状態です。小学校関連では、情報共有の機会が少なく、子どもたちのこともあるので、考えていかなければなりませんね。

 

菊名北町町内会の掲示板、左下には資源回収を再開するとの告知も(2020年1月)
菊名北町町内会の掲示板、左下には資源回収を再開するとの告知も(2020年1月)

<司会>

 

行政(区役所など)との情報面での連携に課題があったとか

 

<長井貞道さん>

 

昨年2019年10月に発生した「台風19号」では、「菊名地区センター」(菊名6丁目、港北図書館と同じ建物)が「避難所」として使われたのですが、避難所としては菊名小学校が登録されており、地震が起きた時には町内会のメンバーが避難所に駆け付けて運営しますが、地区センターは避難所として認識されていない施設でした。

 

菊名小学校が避難所であるということは区の「防災マップ」にも書いてあるので、大雨のなか丘の上まで歩いて行ってみたら、「やっていません、地区センターです」ということになりかねない。

 

区役所のホームページでは、台風前後には避難所一覧の告知が載っていましたが、水害と地震では避難所が異なる、という情報は行政と町内会・自治会が日ごろから共有しなければなりません。

 

昨年(2019年)12月には、古新聞や古雑誌、段ボールといった資源ごみが突如回収できなくなったこともありました。

 

「資源集団回収」と言いまして、横浜市では資源ごみは、町内会・自治会などの地域団体が行政から委託を受け、地域団体側が回収事業者に委託して処理しているのですが、事業者が急に事業を止めてしまったのです。

 

回収日の前日に「明日から行けません、中止の告知を貼ります」と連絡があったのですが、「こんな急に言われても、ごみを出すのは止められない」と慌てました。もし出された場合は回収できないままとなり、雨で汚れますし、放火も不安です。

 

われわれで町内をすべて回って回収し、そして、市の資源循環局に全て引き取っていただきました。2週間くらいかかって業者を選定していただきましたが、「告知を貼ってるんだからいいんじゃない」という問題ではありません

 

やはり、こうした突発的な出来事の際、情報をどう発信し、伝達していくかは非常に大事です。掲示板に貼って広く伝えるという方法は現実的に不可能で、ホームページを開設したのはこうした出来事がきっかけでした。

 

<司会>

 

本日は長時間にわたってお話しいただきありがとうございました。菊名北町町内会は約3000世帯が加入されているということで、大規模町内会ならではのご苦労も多いかと思います。今回のお話は区内で広く共有させていただきます。

 

(「つなぎ塾トーク」第2回:開催日2020年9月15日)